存在を支えるもの

とんぼ返りをやりすぎてめまいが止まらなくなり、このまま死んだらどうなるのかとおののいて眠れなくなった少年が、考えあぐねた末に、自分が死んでも宇宙は残るから大丈夫だと思いついて、やっと眠りについたというご当人の打ち明け話を読みました。この方はそんな体験から宇宙の成り立ちについて研究するようになり、米国留学を経て、今、宇宙生成と深いかかわりのある重力物理学の研究に取り組んでおられるとのこと。

 ユダヤ教の思想家、マルチン・ブーバーの若き日の思い出を読んだことがあります。彼は、広大無辺の宇宙に一人存在する自分を意識するとき、たまらない不安におそわれたといいます。やがて彼は、宇宙の全体が自分の前に全体としてあらわれることはないのだ、ということに気づき、そのことを考えることで不安を克服したと吐露していました。

 どちらも、ある人たちが経験するいわゆる存在不安を、それぞれの経験知を心に強く意識することで克服したのだといえましょう。自分という存在をささえる支点というものがあるのですね。