「前に進まなければ・・・」ある老いのかたち

  先日のこと、用事で戸口を出ると、家の前に80代くらいのご老人が倒れておられました。立ち上がろうともがいているのですが、どうにもならないのです。驚いてそばにいき、手をお貸ししながら話を聞くと、行きたい所があると言われます。これではとてもと心配になり、目的地までお支えしながらおともをしました。

 一見粗末と言わざるを得ないいでたち、汚れた履き物、出てきた妻が心配して「ご家族に連絡したほうが」というと、家族はいないと言われます。「うちで少し休んでからどうですか」というと、とんでもないという表情で「前に進まなければ」と強い語調で言われました。そのあとも「進まなければ」と口にされつつ、懸命に歩いておられました。額には冷や汗とおぼしい滴りが見えます。

 お一人暮らしなのか、どこかの施設におられるのかわかりませんでしたが、いずれにせよ孤独な生活をしておられる様子が伝わってきました。同時に、「進まなければ」ということばに、ぎりぎりの境遇のなかで、生きねばならないという執念のようなものを感じました。ここにも、一つの老いのかたちが

あると思わされたことです。