ふるわれないみ国

筆者の尊敬する信仰指導者の一人、故スタンレー・ジョーンズ博士が、生涯語り続けられたメッセージの一つが「ふるわれないみ国」(新共同訳「揺り動かされることのない御国」英改訂標準訳"kingdom that cannot be shaken"ヘブライ人への手紙12・28)というものです。彼は、各人が神の法則に背くあらゆる生きざまを悔い改め、キリストの支配に全生涯をゆだね、従順に従うことこそ、真の祝福に満ちた不動の生涯であることを説きました。生けるキリストのご支配は、人を解き放ち、真の自由を約束する、さらに復活のキリストがご支配されるところ、人は心も体も健やかにされると率直に語りました。さらに彼は、その原則は個人の生涯のみにとどまらず、この世界のあらゆる場面でこの命の約束、命の法則は有効なのだと語り続けました。

 ジョーンズ博士は、単に個人の救済、霊肉の癒しをのべつたえたのみならず、このいわば神の国の法則は、国と国の関係の中にも真理であることを信じ、語りました。愛と真理が尊重されるところに健康な国際関係が生まれる、その法則を無視するならば関係は病むのだと。太平洋戦争直前、博士が天皇にあてて戦争を思いとどまるようにとの電報を送ったことは有名です。残念ながら、わが国は無謀ないくさに突き進み、取り返しのつかない悲劇を生んだのでしたが。

 昨今、世界の各地に、人類の普遍的な価値よりも、当面の国家利益、権力維持をあからさまに追求する指導者たちがあらわれているように見えます。目的のために手段を選ばない、侵してはならない普遍的な原則をないがしろにして恥じない指導者が、内外で力を得ています。強い権力、大衆を扇動する能力が政治力だと考えられています。「いつか来た道」ということばが頭をよぎります。

 けれどもそれにもまさって筆者の脳裏によみがえるのは、博士のその言葉です。権謀術策で真の平和と繁栄を築くことはできないのだと思います。