愛のきずな

 いつものように近くの公園を散歩していると、こんなことがありました。公園は県立で割合規模も大きく、いつも散歩やジョギングを楽しむ人を見かけるところです。

 久しぶりの穏やかな天気で、気持ちよく林の中を歩いていると、後ろから誰か走ってきます。追い越されて気付きました。二人連れです。ちょっと見に御年輩で七十前後のご夫妻と思われました。その時、筆者の目にお二人の背中の大きなゼッケンが目に入りました。右側を走る奥様のゼッケンには、「視覚障害」とありました。そのとなり、左側を走る御主人のゼッケンは「伴走者」となっています。すべがわかりました。目の御不自由な奥様を、御主人がリードするように伴走しておられるのです。そして、筆者の目はすぐにお二人の手に目が行きました。ご主人の右手がやさしく奥様の左手を引いています。しかも、万一手が離れても大丈夫なように、少し太めのひもでお二人の手が結ばれています。そして、そのお二人はこわごわというよりも、かなりの速さで走っておられ、たちまちそのお姿は林の中に消えて行きました。

 筆者はその時ふと、もしかしたら奥様が途中失明されたのだろうか。ご健康維持のために御主人がリードして運動しておられるんだろうかと考えていました。まぶたには、ひもで優しく結ばれたお二人の手がいつまでも残っていました。どうかこのご夫妻の老いの日々が、優しい光の中にありますように。