確かな価値観

 ある全国紙に、終戦の日に寄せてでしょうか、かつて中曽根内閣で官房長官を勤めた自民党長老で、今はなき後藤田正晴氏の所感が掲載されていました。

 氏は、戦争を経験したものとして、憲法の平和主義にこだわったとのことで

す。それは、あの戦争中から敗戦にかけて、国を指導した人々の姿を見ていて、二度と戦争をしてはいけないと肝に銘じたからなのだといいます。その人々の多くは、戦時は国民を戦争に駆りたてておきながら、負けたとたん、責任を明らかにしないまま、戦勝国にこび、身の安泰をはかったと言われりました。そしてわかったことは、この国には確かな価値観がないのだということだったというのです。それだから「戦争」を始めてはいけないのだ、と考えるようになったとのことでした。それゆえに、自民党に身を置きつつ、党是である自主憲法制定、再軍備の棚上げを敢えて試み、右派総理の中曽根内閣にあって戦前回帰の動きにくぎを刺し、中東への自衛隊派遣の動きを封印させたとのこと。

 戦後七十年余、何事もなかったかのように、戦前の価値観が語られるようになりました。確かに、国を取り巻く情勢は厳しさを増していますが、無数の国民を巻き込んだあの戦争の悲惨の原点を忘れてはならないでしょう。後藤田氏の信念とその歩みに、深く考えさせられます。