仏教というもの

 少し前に、「仏教史」(奈良康明著 山川出版)を読み、原始仏教から歴史的仏教の成立の流れを追いました。また、宗教社会学者ジェフリー・パリンダーの「神秘主義」(講談社学術文庫)を読みつつ、取り上げられている仏教の実像に触れる機会がありました。

 釈迦は存在の「無」を悟り、そこで「解脱」を経験しました。そして人々にそれを説きました。これはなんといつても仏教の根本でしょう。しかし、それが広まるにつれ、仏教教団は民衆の現世的な慰め、救済への要求に応え、仏像信仰、各種祈願を取り込んでいきます。さらに、地理的拡散にともない、その地域、国々の民間信仰などをも取り入れています。わたしたちに身近な日本の仏教諸派も、こうした複雑な混合物だといえましょう。ひとくちに仏教といっても、釈迦の哲学的悟りの体験と教えから、民衆の現世的救済の求めに応える教え、祈祷、そして日本古来の祖霊崇拝の要素など、内容は様々であり、自明ではないようです。

 檀家制度の整ったわが国仏教ですが、「うちは〇〇宗です」と言った時、どれだけの人が釈迦の教え、宗派の開祖とその教えをわきまえておられるでしょうか。