失われるかけがえのないもの

   失われるかけがえのないもの

精神科医で作家でもあり、現在、医療少年院勤務の岡田尊司氏の「発達障害と呼ばないで」(幻冬舎新書)を読んでいます。

 氏は、いわゆる「発達障害」と診断されるケースのうちには遺伝要因による真性「発達障害」と生育環境による「愛着障害」とがあるとし、近年診断例が急増した後者については生後一年半のうちに母親との接触によって形成されるべき「愛着」勘定の有無が決定的な意味を持つとしています。

 そして氏は、特に後者について、人生初期の大切な時期に健全な親子接触を失わせる世相があるとして警鐘を鳴らしています。

 この愛着感情は、成人後までもその人の対人関係に影響を残すと指摘されます。

 子育てのわずらわしさから逃れようとする若い親たち、夫婦ともに必死で働かねば生計が成り立たない、子どもを預けてでも勤務に出なければならない社会情勢、心が痛みます。なによりも、生まれ育ちゆく子供たちがそのしわ寄せを受けなければなりません。当事者も、社会も皆で向かい合わなければならない時が来ているのではないでしょうか。