震われぬみ国

 アシュラム運動の創始者である故スタンレー・ジョーンズ博士のモットーは、「震われない国」でした。これはイエスが説いた「神の国」をさしています。キリストの正義と愛の御統治は、霊的にも実体的にも、揺るぐことなく存在し前進することを現わしています。正義と愛にもとるいかなる権威も、人生も、普遍的な祝福を享受することはないということを意味しています。

 ドイツは第一次世界大戦で敗れ、戦勝国より過重な賠償を課されました。しかし、その過大な負担は国民の間に倦怠と不満を醸成し、それはやがてナチスの台頭を許す要因となりました。その結果は第二次大戦のあの結末です。

 わが国はかつてアジアに侵出し、太平洋戦争を戦って敗れました。しかし、無謀な戦争に導いた責任の所在は明らかにされないままでした。そして戦後70年を迎えようとする今日、力の論理によって国威を謳おうとする政権が大衆の支持を集めつつあります。そこには、かつての戦争についての国家としての総括は何もなく、敗戦の悔しさのみをバネに国家主義的日本を「とりもどそう」というかけ声のみが勇ましく繰り返されます。戦争の惨禍を知らない若い世代は無批判にそのかけ声に取り込まれていくかのように見えます。このような歩みがいかに苦い結末をもたらすのかは、この国の歴史が示すとおりです。

 どんなにかけ声は勇ましくても、威勢があっても、理にかなわぬ、義に適わぬ歩みは、それが国家であれ、各人の人生であれ、やがてそれはついえてゆくことになります。正義とは、神の生きて働く力なのです。正義と愛の支配は、一時的に踏みにじられるように見えることはあっても、必ず残ってゆくのです。これこそ、スタンレー・ジョーンズのライフ・メッセージであり、聖書そのものが語ってやまない歴史の真実です。